2012/04/06

イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに(森美術館)をみて /行ったものだけが「私たち」となる。すなわちそれが「秘密を共有するもの」ということ。(文=佐藤匡将)


イ・ブル展では「秘密を共有するもの」というタイトルの作品を「私からあなたへ、私たちだけに」という展示のサブタイトルと同じ名前のセクションでみることができる。この作品は、今回の展示の為に制作した新作だ。にもかかわらず、フライヤーをみても森美術館のHPをみても、この作品について言及されているページは無い。(イ・ブル展を紹介する他の情報サイトでは作品の画像とともにこの作品について言及しているところはある。)4つのセクション「つかの間の存在」、「人間を越えて」「ユートピアと幻想風景」、「私からあなたへ、私たちだけに」はイ・ブルのキャリアをなぞるように作品をみることになるため、どのようにイ・ブルの作品が変化していったのかを体感することができる。


イ・ブルの制作現場を再現した「スタジオ」という部屋が展示後半に挟まれている。スタジオには「秘密を共有するもの」に関する数十枚のドローイングが壁に貼られ、30種類程の様々な素材で制作された「秘密を共有するもの」の立体が床やデスクに置かれていた(もちろん他の作品のドローイングや模型も展示されている)。イ・ブルがどのようなことを考えどれほど試行してひとつの作品を制作していくのか、作品が作品となるまでの過程を私は、突如として現れた「スタジオ」によってみてしまう。キャプションには「秘密を共有するもの」のモチーフが長年一緒に暮らしていた犬だということが記述されていた。


六本木ヒルズの情報を届けるエリアマガジン『HILLS LIFE』で「アートとエンターテイメントの違いは何でしょうか?」というインタビュアーの問いに対して、イ・ブルは「アートとエンターテイメントは重なる部分があって、線引きは難しいですね。ただ、エンターテイメントは他人がなにを望んでいるのかを見せるものであり、アートは自分自身がなにを望んでいるのかを見せるものではないかと思います。」と回答していた。イ・ブル(私)から展示を見た人(あなた)は「何か」を受け取り、「何か」を共有することで「私たち」となる。展示を見終わって「私からあなたへ、私たちだけに」という言葉を思い返すと、スッと胸に響く。宣伝材料として「秘密を共有するもの」を使用しなかったことにイ・ブルの意志を感じた





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